私は昔からプリントTシャツが好きで、特に気に入ったものを見つけるとつい買ってしまう。プリントTシャツには、以下のようなジャンルがある。
ファッションT(ファッションブランドが販売するもの)
アートT(美術館やギャラリーで販売される展覧会もの)
音楽T(ミュージシャンのツアーグッズなど)
イベントT(イベントで販売されるもの)
飲食店T
企業T
その他
今回は、特にアートTについて興味深い体験をしたので、それを紹介したいと思う。
私のアートTシャツ体験
まず、私が手にしたアートTシャツ2点を紹介する。これらは、亀戸アートセンター主催の展覧会「ZONSHANG / ヌキ本『Ultra NUKImatic K.A.C.』」で、アーティストのZONSHANGさんとヌキ本さんの作品を、持ち込んだTシャツにシルクスクリーンプリントしてもらったものだ。
鑑賞者が持ち込んだTシャツに、その場でアーティストサイドがプリントしてくれるというこの手法に、私は大きな魅力を感じた。
アートTシャツの可能性
この体験で特に面白いと感じたのは、鑑賞者が持ち込むTシャツにアーティストの作品をプリントすることで、新たな作品の記号的形態や視点が偶然的に生まれる点だ。プリントするTシャツのデザインによって無限のバリエーションが生まれ、それが鑑賞者のキャラクターと融合しながら、SNSを通じて広がっていく。
鑑賞者が持ち込むTシャツのほとんどは工場で大量生産されたものであり、特にUNIQLOやGAPのような大企業の製品であれば、大量生産・大量消費の象徴といえる。これに対し、アーティストが手刷りでプリントすることで、そのTシャツの意味や価値が変化する。この行為は、大量生産・大量消費の流れの中に、小さな「結び目」を作り、消費者に立ち止まる瞬間を与えるものではないだろうか。
こうしたアートTシャツの作り方は、ポスト資本主義的なアプローチとも捉えられる。Tシャツというある意味では大量生産・大量消費の象徴にアーティストの手が加わることで、大量生産品がアート作品へと変貌する可能性を秘めている。
この一連の行為は、ヨーゼフ・ボイスが提唱した「社会彫刻」の概念を思わせる。「社会彫刻」とは、ボイスの思想と活動の核心であり、「すべての人間は芸術家である」という考え方に基づく。ボイスは、日常の行為が意識的であれば、それを芸術と捉え、社会的な側面を強調した。つまり、社会彫刻とは、未来のために社会を自ら形作っていくという考え方である。いささか大袈裟かもしれないが、持ち込みTシャツにアート作品を手刷りする行為は、嘘のないエコでエシカルかつサステイナブルな社会を目指すアプローチの一つとして注目できるのではないだろうか。
まとめ
論理的な考察はさておき、既存のTシャツを媒介にしてアーティストの作品を自分だけの1枚として所有できる喜びがこの体験にはある。まだ試したことがないプリントTシャツ好きの方には、ぜひ一度このアートTシャツの世界に足を踏み入れてほしい。